アラサーOLがアートでアレコレやってみるブログ

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裸だから叫べるんだ ライアン・マッギンレーの写真展で見えた現代のヌード

■セクシーさを感じる裸体画なんて、もう古い


ヌード写真の展示会がある
そう聞くと、1年前に話題になった春画展で感じた、得も言われぬドキドキを思い出してしまう。

 

しかし実際に訪れてみると、明るい会場内でヌードは実にあっけらかんとしていた。

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ライアン・マッギンレー<Jessica & Anne Marie>2012


ライアン・マッギンレーの写真にセクシーな表現はない。
反対に、そのような邪な考えを抱いて訪れた自分自身を見透くような視線に、少しばかり心が痛む。

 

大声で叫ぶ写真家 ライアン・マッギンレー

アメリカの「最も重要な写真家」と称されるライアン・マッギンレー(1977年~)。今後その名を覚えていても損はないだろう。
彼の日本での初大規模個展「ライアン・マッギンレー BODY LOUD!」が、初台の東京オラシティアートギャラリーで開催された。

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本展では、マッギンレー自身が選んだ作品、約50点が並ぶ。
作品では、牧歌的な風景のなか全裸で走り回る姿や、極寒の地で同じく裸体でポーズを取る姿には目を奪われるだろう。

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ライアン・マッギンレー<Mellow Meadow> 2012

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ライアン・マッギンレー<Plotter Kill Storm>2015


ニューヨークにある、アンディ・ウォーホルなどの近現代芸術を所蔵する、ホイットニー美術館。そこの館史上最年少で個展を開いたマッギンレーだが、作品に登場する人物の多くがヌードである。
特に、壁を埋め尽くすインスタントレーション作品「イヤーブック」内の素人モデルたちは印象的だ

 

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ライアン・マッギンレー<イヤーブック>2014


そもそもイヤーブック(YEAR BOOK)とは何か。これは学校生活一年間を振り返る冊子で、年度末に配られる、欧米の学校でよくある慣習だ。

日本の卒業アルバムが近いが、決定的な違いはその冊子が取り上げる年数である。卒業アルバムは最短でも3年間を一冊に凝縮し、イヤーブックはその名の通り1年のみだ。

 

仕上げない、格好つけない、だから美しい
マッギンレーの「イヤーブック」では、モデルたちが自由にポーズを取っている。古典的な裸婦画の作画風景にありそうな光景だが、そこに性を感じるものはない。

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大抵ヌードといえば、身体の女性・男性らしさが描かれ(時には強調され)、見る側はそこに人間の姿形の美しさを感じるものだ。

ティッツィアーノの「ウルビーノのヴィーナス」を見るとそれが分かる。
女性の挑発的な目線や官能的なポージングによって、その当時の「美しい女性像」が露骨に描かれている。

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ティッツィアーノ・ヴェチェッリオ<ウルビーノのヴィーナス>1538年、ウフィツィ美術館


しかしマッギンレーは、被写体を美しいモデルに仕上げず、あるべき姿のまま、個人のままを写している。

「僕が必要としてるのは、(省略)ありのままの姿でカメラの前にいられる人。
たとえば、ベッドで眠っているボーイフレンドや、部屋で椅子に腰掛けている母親を眺めるだけで幸せな気分になるだろう?
TIME OUT TOKYOのインタビューより引用

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作品に必要なのは「人間」ではなく、「○○さん」と呼べる人

他の作品のタイトルに、被写体の名前が記載されているのは、彼らの個性が作品の一部だからだろう。

 

人の表情やボディランゲージは、その人が生活する環境や習慣から少しずつ影響を受けて作り上げられる。そこで人の独自性が生まれる。

それらが集まれば、その時代に住む人々の息遣いを感じることができる。この作品のタイトルに、一年を振り返るイヤーブックとつけた理由は、そこにあるのだ。
これは現代のアメリカを構成する人々の「イヤーブック」といえる。

 

人とフラットに接すれば、心は開かれる
ふざけた笑顔やしかめ面のモデルたち。写真からはヌードのエロティックさを払拭されていて、モデルは自然体だ。
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裸になることで人の精神を解放させていると、多くの作品紹介文に記載されている。しかし、それでは説明が足りないのではないか。

服は、スカートやパンツなど性を固定する場合もあり、また体の特徴を隠してしまう場合もある。胸があるのもないのも、単なる身体つきの違い。
しかし一つ一つの身体からは大きな主張が生まれる、この展示会のタイトル「BODY LOUD!」のように。

 

「イヤーブック」はLGBTや国籍など、人のフラット化が提唱される現代で生まれた、極自然なヌード・アートなのだ。その時代の文脈を読み取り、写真に捉えるライアン・マッギンレーは確かに「最も重要な写真家」といえるのかもしれない。 

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ライアン・マッギンレー BODY LOUD !|東京オペラシティアートギャラリー
~7月10日まで)

※ちなみに、今回個人的には展示会のカタログよりも、IMAのマッギンレー責任編集号のほうが見応えがありました。会場でも買えますので是非。

imaonline.jp

※ライアン・マッギンレーのWEBでも写真を見ることができます。

RYAN McGINLEY