日本のアートの今を知りたければここに集え 「泊まれるアート」BnA hotel Koenjiがスタート
人がアート作品に触れたいとき、どこに向かうだろうか。
ぱっと思い浮かぶのは、国立新美術館や森ビルのアートセンターなどの施設だろう。
ニューヨークのチェルシーや、パリのモンマルトルのように、ふらりと歩いていたらアートにつながる、という地域は東京ではなかなか見つからない。
実際には銀座や表参道、そして高円寺にはギャラリーも多く、地域発信型のアートイベントも意欲的に開催しているのに、だ。
しかし、高円寺に今年の3月、新しい施設が誕生する。
「泊まれるアート」をコンセプトにした、部屋がまるごとアートの空間となっている宿泊施設 BnA hotel Koenji。
その部屋はまさに、見る人が「アートの中に入りこんでしまう」部屋といえるだろう。
JR高円寺駅北口。
ロータリーを右側に進み、1分もしない内にたどり着くビルがそれだ。
所せましとアート作品が飾られた1階は、ホテルのフロントデスクとなっている。
部屋は2階と3階にある。
■日本狼が駆け抜ける部屋 高橋洋平「(未定)」
2階アーティスト:高橋洋平
まずはライブぺインター・高橋洋平さんが手掛ける、2階の部屋を見てみたい。
扉を開けると、まず暗い森のような雰囲気に包まれる。
そして、まだ新しいウッドの床の上を寝室に向かって進むと、ハッと、颯爽感が突き抜ける。
日本狼だ。
部屋の入口の、暗い森の暗闇と溶け合っていた日本狼たちが、寝室でその正体を現す。
部屋の反対側から見てみると、入口から日本狼たちが駆け抜けていきそうに感じるのだ。
もうここで完全に私はこの部屋のトリコになってしまった。
今日はここから離れないぞ!!!!思わず吠えそうになる。
じっくり作品を見ていると、日本狼たちの、まるで人間のような表情にひとつひとつ目が奪われてしまう。
BnA hotelはこれまでに池袋、京都の二か所にオープンしている。
しかし、この高円寺のものは、建築の段階からアーティストの方々が参加し、その作品を表現するための工夫を部屋自体に凝らしている点で、他の二つの施設とは異なっているといえる。
日本狼のそのリアルな描写も、天井の角を取り、半円にすることで、違和感が生じないように工夫しているのだ。
右側の上の狼の背中の毛の辺りが、本来は壁面と壁面の角になる。
間接照明だけで照らすと、狼たちが浮かび上がり、昼とはまた違った、日本狼特有の神秘性をも感じることができる。
もうしまいには、狼が愛おしくなり、最大級の愛情表現で壁画にべったり張り付きたくなってしまうのだが、これはれっきとしたアーティストの渾身の作品。
敬意を払い、目だけで愛でることに全神経を集中させたい。
■アートの一部に取り込まれる部屋 Ryuichi Ogino「Ten」
3階アーティスト:Ryuichi Ogino
続いては3階。
2階とは全く異なる、鮮やかなイエローカラーが入口から出迎えてくれた。
寝室はアーティスト Ryuichi Oginoさんの世界観が十二分に感じられるような、ミニマルな作品となっている。
先ほどの日本狼の部屋が作品の世界観に引き込まれるものだとしたら、こちらの部屋はまるで自分がアートの一部として取り込まれてしまったかのような感覚に陥る。
この作品は、地と図の2つがある。
有名な絵画・モナリザでいうと、モナリザ自身=図、背景=地である。
壁や照明の黄色の部分が地で、黒と白のジグザグもしくはグルグルの文様が図としてその上に置かれている。
クッションや、フットカバー、そしてカーペットまでも!そのルールが守られており、これがホテルの一室ではなく、アート作品なのだと改めて実感させられる。
どうやらベッドの後ろにある壁掛けの装飾は偶然にも、左が「男性」、右が「女性」のシンボルを、そして真ん中のジグザグが「交わり」を表現してしまったらしい。
ちょっぴり、わお!なエピソードには思わず笑ってしまった。
今後はウェルカムドリンクや室内のBGMなど、視覚以外でも作品を鑑賞できる仕掛けを企画しているとのこと。
作品の更なる進化が楽しみすぎて、もう、正座しながら待っていたい気持ちだ。
■ターゲットは日本の「ローカル」に触れたい外国人観光客
宿泊費は16,000~20,000円を想定しており、ターゲットは外国人旅行客。
特に旅慣れをして、有名な観光施設よりは「ローカル」(いわば地元)に注目する人を想定している。
そのため、今回ご紹介したビルを中心に、高円寺の町にちりばめるようにして今後3年で30~40部屋の展開を計画している。
一般的なホテルに付随するレストラン、お風呂、お土産屋などの役割を、地元のビジネスと提携・協業をし、一つの施設で完結させない、町全体で「ホテル」を機能させる形態へと発展させていくというのだ。
余りにも壮大な計画すぎて、くらりとしてしまう。
■日本のアートの今を知ることができる高円寺
しかし、私たち日本人もアートを楽しみたい!
実はBnA hotel Koenjiはホテル・ビジネスでは終わらない。
冒頭の「人がアートに触れたいとき、どこに行けばいいのだろうか」の問いに答えてくれるのが、このホテルだ。
3月にオープンするビルの1階は、昼はおにぎりカフェ、夜はバーとして営業するため、宿泊者以外でも利用ができる。
更に地元のアーティストたちはそこに作品を持ち込めば、他のアーティストの作品と交換できるシステムとなるらしい。
ここでローカルのアーティストたちによる、アートのサイクルができる。
そして私たちも日常的な生活の中で、最先端のアートに触れることができるのだ。
しかし作品と人との(物理的にも)距離が近い。近すぎて壊してしまわないか、不安になってしまう。
振り向けば作品がある。そんな距離感のバー。
地下のフロアでも国内外のアーティストを毎月招待し、その空間で作品制作から展示までが行われるアーティスト・レジデンシーが実施される。
ということは毎月ふらりと高円寺に訪れても、「今」を感じられるアートに触れることができるのだ。
そして高円寺というギャラリーが多い土地柄、生きたアート情報も集まるに違いない。
BnA hotel Koenjiは外国と日本をつなげるだけでなく、地元の点と点をつないでいくのだろう。
「日本のアートの今を知りたければここに集え」
2016.3.7 GRAND OPEN