マグリットVS現代人 ー 作品のタイトル命名センスを勝負してみた
突然ですが、こちらのCDジャケットに見覚えありませんか?
そうです、Mr.Childrenの「優しい歌」のCDジャケットですが、実はこちらはとある画家の作品のパロディなんです。
そのネタ元はこちらの、ルネ・マグリットの≪ピレネー城≫という作品です。
海の上にぽかんと浮かぶ岩とその上にそびえ立つ城というこの構図は、どことなく天空の城ラピュタを思い出させます。
ちなみにマグリットといえば来場者が10万人を超えた話題の「マグリット展」が開催中ですが、今回はマグリットの作品の見どころについてお話したいと思います。
≪そもそもマグリットって誰?≫
ルネ・マグリット(1898~1967)はベルギー出身の、ピカソと肩を並べるほど有名な20世紀美術を代表する画家です。彼の描く、まるで夢の中に入り込んだような摩訶不思議な世界は、美術の知識がなくても楽しむことができます。
≪ゴルコンダ≫1953年 今日の空模様は「おっさん」。
≪人の子≫1964年 サイコメトラーOSSAN。
≪大家族≫1963年 その大きさゴジラ級。
≪マグリット展の見どころは?≫
・約130点の真作が一挙に見られること!
世界各地の美術館やコレクションに散らばっているマグリットのコレクションがこの美術展に集まっているため、マグリットの真作(実際に画家が描いた本物の作品)をまとめて見られるチャンスです!
余りに多すぎて、興奮しすぎて最後のほうは脳味噌が蒸発しそうでした。
・初期から晩年の作品まで、画家の作風の移り変わりが見られること!
作家さんの名前を看板にしている美術展ならではの魅力がこちら。
先ほどご紹介した3作品はいずれも晩年の作品ですが、「マグリット展」では彼の若い頃に自分の描き方が定まらずに試行錯誤していた様子や、戦争の影響で自分のスタイルを見失ってさ迷っていた様子も作品を通じて見ることができます。
・身の回りにあるものから作られた、非日常的な世界を体験できること!
先ほど夢の中に入りこんだようなとご紹介しましたが、マグリットの作品の特徴は身の回りにある日常品(ベルギーの方なので日本人には見慣れないものもありますが)や日常風景を、変てこに組み合わせることで人々に「あれ?」と違和感を覚えさせるところにあります。
≪光の帝国II≫1950年
例えば、この作品を見てみると、空は昼のように明るいのに、人々が生活する町は夜のように暗く、街灯や家の明かりも灯っています。
このように全く反対の、昼と夜の風景を組み合わせてしまうことで、実際は現実にありえない景色にも関わらず、見たことがあるようなないような不思議な感覚に囚われてしまいます。このような不思議な違和感を作品から感じ取れることがマグリットの魅力になります。
・・・と、ここまでが大体の「マグリット展」のレビューに書かれている内容になります。
が、これから「マグリット展」に行かれる方のために、知っておくと作品がもうちょっと面白く見られるヒントをご紹介したいと思います
≪マグリットの作品のここが面白い≫
・マグリット自身も語らない、作品の「意味のわからない」ところが面白い。
正直にお話しましょう。
今回「マグリット展」を一周し、図録(今回の美術展で展示品や画家について説明された本)を読み、ネットで調べましたが、やっぱりマグリットの作品は「意味がわかりません」。
というのが、作品に描かれているものが何かは理解できるのですが、それらがどんな意味をもって、そこに描かれているのか「これ!」という答えが見つかりません。
例えばこちら。
≪宝石≫1966-67年
木の箱の上に、おっさんと鳥の頭が向かい合って並んでいるだけ。
しかもタイトルが≪宝石≫ときた。
真面目な美術展にこんなふざけたものが出てくるとは思わず、笑っちゃいました。
もう「マグリットの作品の意味を考えても無駄だな」と悟るしかなく、作品を見たときの「意味のわからなさ」を存分に楽しみ、答え探しをやめることにしました。
実はマグリットも他の人から作品の説明を求められても、その答えを教えなかったようです。
作品は「世界が本来もっている不思議をイメージして提示」しているとマグリット自身が語っていますが、元々「不思議」なものを描いているので、それを解明しようとするのは野暮かもしれませんね。
最初にお話しました「美術の知識がなくても楽しむことができる」ということはこういうところにあるんです。
・商業ポスターのような「わかりやすい」絵の構図が面白い
「意味がわからない」と説明したうえで、何をいうんだという話になりますが。
実はマグリットの作品は「意味がわからない」けれども、何がどこにどのようにあるかが分かりやすく、もっと言えば描かれているものを人が認識しやすいように配慮して描かれています。
それはもともとマグリットが学生時代から、ポスターなどの広告美術を手掛けていたことにあります。まだ画家として成功していないときも商業用ポスターなどを作成してお金を稼いでいました。
つまり、人を注目させて、描かれているもの(商品)に対して興味を抱かせる(更にはお金を出させる)という広告ならではの技術を彼は若いころから知り、体得していたのです。
≪美しい虜≫1931年
例えばこちら。
一見風景画ですが、何かおかしい。
よく見てみると画面の中央、緑の茂みを分断する白い線が見えます。どうやらその白い線は、画面の右側にあるキャンバスの縁のようです。これがおかしいと感じる原因のよう。
実は私たちが見ていた風景画の一部は、このキャンバスに描かれていた景色だったのです。
となると、茂みの右側から通りを通る馬車までの一部の風景は、元々そこにある風景なのか、それともキャンバスに描かれただけの空想の風景なのかわかりません。
正解がどちらかなんて誰もわからない!こんなモヤモヤした気持ちに囚われて、すごくこの絵のことが気になってしまいます。
このように人の視点が集まりやすい画面中央にわざと違和感を覚えさせる仕掛けを作って、鑑賞者の視点と頭を自然と動かさせて、様々な疑問や感情を抱かせるという一連の行為を促す描き方に、思わず「マグリットお見事」となるわけです。
そしてタイトル通り、美しいこの風景画に虜になってしまいます。
そして最後に、先ほどの作品≪宝物≫でもお気づきかもしれませんが、マグリットの作品のタイトルのセンスに惚れぼれしてしまいます。
・マグリットの友人たちがつけた作品のタイトルが面白い!
実は作品にタイトルをつけたのはマグリット本人ではありません。
マグリットが友人たちに頼んで、タイトルをつけてもらっていたのです。
中には10個のタイトル候補が作品の裏側に連なっているものもあるらしい。
なんかboketeみたいなノリですよね。そのノリ嫌いじゃありません。
※bokete: ユーザーが投稿した写真やイラストなどに対して他のユーザーがボケを投稿する、大喜利のようなウェブサービスのこと。
私のおすすめはこの3作品。
ぜひぜひ皆さんも作品のタイトルをつけてみてください。
いい意味で気持ちよく裏切られます笑
爽やかな雲だけの作品。
≪呪い≫1931年
思わずこの空を見上げた人に何があったのか心配してしまいます。
でっかい鼻。荒野に咲く鼻。でも鼻。
≪占い≫1937年
鼻が利くということでしょうか。図録でも作品解説を確認しましたが、鼻には一切触れられていませんでした。なぜ。
もう何がなんだかわからない。カオスな空間。
≪軽業師の休息≫1928年
このタイトルをつけた人の思考は私たちの想像の斜め上を行っています。
いかがでしたか?
中にはもちろん真面目なタイトルもありますが、マグリットの作品の意味不明さを倍にしてくれますよね。
さて、そんなタイトルセンスをもったマグリットの友人たちに思わずジェラシーを感じてしまいますが。
私の周りにもセンスフルな友人たちはいるじゃないかと。ふと気づいてしまったわけです。
ということで、また人の迷惑も考えずに友人を巻き込むことにしました。
≪マグリットの友人と私の友人とで、
作品のタイトル命名センスを勝負してみた≫
ただしマグリットの作品を渡してタイトルをつけてもらってもつまらないので、この前のブログで克服した自撮りを撮って色々加工したマグリット風の作品を作って送ってみました。
参考にしたマグリット作品とタイトル、その後に私の愛おしい作品たちとそのタイトルを掲載し比較したいと思います。
※友人たちには、「マグリット」の元の作品についても、それを参考にして今回私の作品を作成したこともお伝えしておりません。
「画像を送るからタイトルをつけてほしい。インスピレーションを大事にセンスある回答で」と無茶振りしただけです。皆様本当にご協力頂き、ありがとうございました。
・検証1:顔面対決
≪凌辱≫1959年
こちらは穏やかならないタイトルですが、友人たちはハッピーなタイトルをつけてくれました。
≪思考の悪魔≫2015年 タイトルby タイの妊婦
地味に時間がかかった作品。
他に、≪理想高すぎ≫ ≪顔面マッチョ≫ ≪好物≫など顔中央のマッチョメンをフューチャーしたものもあったのですが、タイの妊婦さんの想像力に脱帽して、こちらをタイトルとしました。
・検証2:違和感対決
≪新聞を読む男≫1928年
左上のマスにだけ男性がいますが、そのせいで他の3マスの男性不在に違和感を覚えるという作品です。
≪真実の鏡≫2015年 タイトルby: ワーカーホリックな友人
他にも、≪目が覚めた瞬間、カメラを察知して即座に表情を作るプロ意識≫や≪デザイン≫などもありましたが、マグリットの作品と同じ意図を汲んでいたのが、唯一このタイトルでした。
(ちなみに繰り返しますが、タイトル命名を依頼しているとき、マグリットについては一切話していません。さすが私の友人!!)
・検証3:透明人間対決
≪王様の美術館≫1966年
≪斜に構える≫2015年 タイトルby:中学時代からの親友
意外とアーティスティックに仕上がってしまったと反省した作品。が、だからこそこのタイトルが効いてきます。
他は≪透明人間になりきれなかった≫ ≪春が待ちきれない≫ ≪忘れ物≫などピースフルなものがありました。
ちなみに昨日飲んでいるときに20代前半の男の子に絡んで、この作品にタイトルをつけてとせがんだら ≪新宿2丁目にいた女の整形後の顔≫ とつけられました。
彼の行く末が気になります。
・検証4:擬人化対決
≪生活の術≫1968
この絵画の何を生活の術として参考にすればいいのかわかりません。
≪多様化≫2015年 タイトルby タイの妊婦
次点が中学の親友がつけた≪若さ≫。
ちなみにまた昨日の飲みにて、30代半ばのおっさんたちにタイトル付けをお願いしたら、勢いよく「キ○タマ!!」と返ってきました。生殖機能強すぎるでしょう。
あと、合成が楽しすぎてもう一枚作っちゃったのがこちら。
グローバルな雰囲気に仕上がったもの。
なんか昔のイタリアとかのテレビCMにありそうだなと一人でほくほくしていました。
イタリアのテレビ放送なんて見たことないけど。
気になったタイトルがこちら、≪五つ子、母を求めて三千里≫ ≪家族旅行≫ ≪登山部≫ ≪スピリチュアルを感じにきた人々≫。他人に依存しないとできない旅になります。
いかがでしたか?
今回ブログのタイトルでも勝負と書きましたが、勝敗の結果は出しません。
個人的には圧勝かなと思っているのですが笑
皆様のほうで勝ち負けを決めて頂けたらと思います!
ちなみに前回のブログを受けて、今回協力をお願いした友人たちは「自分の番がきたか」と警戒している様子でした笑
残念ながら、またお願いすることもあると思うので今後とも何卒宜しくお願い致します。
そして今回快く受けてくれたにも関わらず、採用できなかったタイトルもありました。大変申し訳ございません。
マグリットの友人たちも「今度は自分の番か」とか「またきたか」というような声をあげていたのでしょうか。絶対飲み会の話のネタにはなると思いますが。
諦めの中に「しょうがないなあ、もう」という愛情が入っていてほしいと願わんばかりです。
ということで笑って許してにゃん♪
笑顔ひきつってますけどね。
まだまだ「マグリット展」は開催中です。
★現在お仕事募集中 アート関連(それ以外でも可)の記事作成などお待ちしております★
お問い合わせ先:yukivicher@gmail.com まで御願い致します。
今回ご紹介したマグリットの作品の中で≪生活の術≫以外は全て展示されております。
マグリットの作品は本当に人を引き込む力があり、正直PC、スマホ画面画質では伝えきれない部分が多くあります。
ぜひぜひこの機会に、「マグリット展」に足を運んでみてくださいね。
※こちらは「マグリット展」からはお金は一切もらっていない個人ブログですので、ご安心ください。