美術史で見る「占い」学―占いに時間やお金を取られたのは今も昔も変わらないようです
あなたは占いを信じますか?
もしあなたが女性なら、何か悩みごとがあったときの駆け込み寺にしているかもしれませんね。
ちなみに今私はアラサーにして彼氏ゼロという状況下、以前占い師の方に頂いた、「奇跡に近い助言」を盲信する毎日です。
アラサーにして彼氏ゼロという、一見お先真っ暗に見える今の私の未来は、
その時の占いによって支えられているのです。
はい、今日はどんなお悩みですかー?昨日はどんな夢見ましたかー?
って精神科医の先生に聞かれてしまいそうですが。
ではその「私の未来を支えている占い」とはなんなのか。
3年前の夏に友人といったトルコ旅行で、トルココーヒー占いにチャレンジしたことがきっかけにあります。
噂の現場。こぎれいなカフェ。
トルココーヒー占いとは、粉っぽいどろっとしたエプスレッソ位の容量のコーヒーを飲みほし、コーヒーの粉がコップの底に残っている状態でコップを受け皿にひっくり返します。
その受け皿に移ったコーヒーの粉の文様を読み取って占うという。
カップをひっくり返した様子。なんか汚いな。
はい、こんなもので占うなんてうさん臭いですよね。
ええ、わたくしもそう思っておりました。
が、詳細は言えませんが、一緒にいった友人のお告げが半年後に現実になるというミラクルが発生し、路上で便利調理器具の実演販売を見せられたおばさんのようにSUGEEEEとなってしまいました。
ちなみに私が占い師さんにぶつけた質問のうち、最大級のがっつき質問がこちら。
「結婚するのはいつ?」
男性と一緒に行っていたら、300mくらい引かれるような質問です。
その結果ですが2015-16年の間という明確な回答がでてきました。
はい、結婚は今年か来年でございます。
繰り返しますが、2015年始まってまる4か月経とうとしている現在彼氏はゼロという状態です。
かつてないミラクルが私を待ち受けているに違いない。
そんな私を見て先輩はこう言いました。
「占いと根拠のないポジティブ思考は一番よくない兆候。現実をみろ」
はい、痛々しい女の話はやめて、美術の話に入りましょう。
そんなアラサーの心を揺さぶりまくる占いですが、色々ありすぎて私もよくわかりません。
手相とか四柱推命とかタロットとか姓名判断とか。
今回は西洋画について話したいので、西洋の占いの起源である占星術について話しますね。
占星術は、紀元前2000年前のメソポタミア文明(最古の文明!)で元々は暦を読むために始まったものですが、それ以外にも星の様子は神様からのメッセージとして捉え、それを読むことで今後何が起こるかを占ったわけです。
途中なんやかんやあるのですが、結果ヨーロッパでは、天文学の祖ともなる「星の動きを読むもの」と、「星から読み取ったものから占うもの」の二つの面を占星術は持ち続け、ヨーロッパの貴族社会に根をおろします。
アントニオ・ベルッチ≪占星術の寓意》1700年頃
占星術の当時の地位の高さを示すものがこちらの作品になります。
これは4枚の連作で天井画になりますが、この作品以外に≪絵画の寓意≫ ≪彫刻の寓意≫ ≪音楽の寓意≫があります。
この4枚に何が共通しているかというと、その当時の権力者たちが自身の財力の誇示と権威を保持するために投資していたものではないでしょうか。
つまり、「絵画」「彫刻」「音楽」そして「占星術」が権力者たちに好まれていたのです。
ケプラーの法則を発見したヨハネス・ケプラーは、天文学者以外に、数学者、自然哲学者、そして占星術師としての顔を持っていたのですが、彼はこんな面白い言葉を残しています。
「このおろかな娘、占星術は、一般からは評判のよくない職業に従事して、その利益によって賢いが貧しい母、天文学を養っている」
(ケネス・J・デラノ 『エピソード占星術 嘘かまことか Astrology-fact or fiction ?』 市場泰男訳〈現代教養文庫〉、原著1973年、94頁における、ウォルター・W・ブライアント『ケプラー』n1920年からの引用による。)
要するに権力者たちは自分たちの運勢を知ることばかりに興味があって、そこに投資していたのですが、結果的にその投資がケプラーのような天文学者たちの資金源になっていたわけです。
ただ、コペルニクス先生の地動説のおかげでそれまで占星術を支えていた天動説が崩れてしまいました。(主人公は地球で、神様が空を動かしてメッセージを送っているという主観的な視点が一気にぶち壊されたわけです)
そしてそれによって、それまでなんとなーく科学の分野に足を踏み込んでいて信頼を勝ち得ていた占星術が、オカルトの領域に入れられてしまいます。
そして美術史の中に「占い師」というモチーフが登場します。
それは風俗画という人々の日常生活の情景を描いた絵画たちの中に多くあり、ちょっとしたトリックが隠されているんです。
カラヴァッジョ≪女占い師≫1596-97年
「占い師」という題名がされているものは大体この対極的な2人がメインとなっている構図が多いです。
左側の占いをする質素な女性に対して、帽子に羽とかつけたり襟がびらびらしたりしている派手な男性。
見ている側にも、占いをされている方がそれなりの身分の人だということが分かるように仕掛けられています。
これが合コンの風景だったら、女性が一銭も会費を払わなくてもいいかもしれないってほくそ笑みながら、「やだー手きれーい」みたいにさりげなくボディタッチしている様子に見えますね。
まぁ女性は男性の指から指輪を抜き取っているんですけどね。
おまわりさんこちらです。
実は「占い師」というモチーフの場合、デフォルトで「窃盗」のシーンがついてきます。
こちらもそう。
二コラ・レニエ≪女占い師≫
※2015年5月現在:「ルーヴル美術館展」国立新美術館で作品を見ることができます。
メインの2人はすぐにわかると思いますが、占いを見てもらっている貴婦人のすぐ横にいる占い師の仲間?の女性の右手は、貴婦人の財布の紐を引っ張って盗ろうとしています。
まさかの窃盗団。
でも、実はこちらはもう一人いて、占いの様子を見ている野次馬なのか、貴婦人と一緒に来ている人なのか正体不明ですが、ちょっと影になってしまっている男性。
手には鶏を持っているんですが、どうやら占い師のものを盗っているらしいです。
ダブル窃盗!
狩り放題!!
ここまでくると登場人物の表情を深読みしてしまいます。
ただ貴婦人が男性とお仲間だったらまだプラマイゼロで?救われるんですが、次に紹介するこちらは悲惨な状態となっております。
ジョルジョ・ラトゥール≪女占い師≫1632年
※個人撮影
中央の男性が、右側の女性にコインで占われていますが、周りの女性たちのお手元にご注目ください。
白いターバンを巻いている中央右の女性は、男性の懐中時計の鎖を切っています。
男性の後ろにいる画面左側の女性は、男性のポケットから何か盗もうとしています。
こうなると奥にいる黒髪の女性も何か盗っているんだろうなと想像が広がりますね。
男性も腰に手を当てて占い師を威嚇しつつ怪訝な表情をしておりますが、占いの内容を怪しんでいるのでしょうか。
そっちじゃない!ってつっこみたくなります。
もはやネタみたいな絵画ですが、こういった風俗画はリアルにその情景を描くことで、「教訓」を伝えていました。
他の風俗画でも賭け事の場で騙そうとしている様子や窃盗している様子を描いたものなどもあり、危険な遊びをすると痛い目に遭うよといった教訓が多いようです。
ただ、絵画の担い手は貴族など身分が高い人だったので、「教訓」は一般大衆にというよりも、親のお金で遊んでいる貴族の息子や娘に向けてだったんでしょうね。
ちなみに昨日懲りずにまた別の占いに行って「結婚!結婚!」と騒いできたのですが、マダムバタフライみたいな方に笑顔で「ごめんなさいね。あなた35歳までは結婚できないわ」とばっさり切られました。
トルココーヒー占いを盲信して「2年で結婚出来るし」などと調子こいてのんびりしていた私を絶望のドン底に叩き込んだのです。
現代の占いでは流石に財布を抜き取られることはありませんでしたが、
占いを鵜呑みにしてのんべんだらりと過ごしていると「若さ」という時間を失ってしまいます。
「占いで取られる」という意味では昔と今では、「お金」か「時間」の違いしかないのかも知れませんね。
占いなぞにうつつを抜かすのではなく、地に足をつけて、日銭を稼いでいきたいと思います。
★現在お仕事募集中 アート関連(それ以外でも可)の記事作成などお待ちしております★
お問い合わせ先:yukivicher@gmail.com まで御願い致します。